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最高裁判所第一小法廷 昭和52年(行ツ)130号 判決

上告人

田中靖一

右訴訟代理人

田倉整

横山寛

被上告人

石福金属興業株式会社

右代表者

古宮誠一

被上告人

亡鈴木恒喜訴訟承継人鈴木英雄

右両名訴訟代理人

新長巖

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人田倉整、同横山寛の上告理由第一点及び第三点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

同第二点について

記録によれば、所論の各証拠は、上告人主張の事実を立証するための唯一の証拠方法であるとは認められないから、その取調をしなかつた原審の措置に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第四点について、

特許無効の審判請求人が被告となつている審決取消訴訟の係属中に被告が死亡した場合には、民訴法二〇八条に基づきその相続人その他法令により訴訟を続行すべき者において右訴訟の手続を受け継ぐべきものであつて、訴訟が終了するものではないと解するのが相当である。したがつて、所論のように本訴が原審に係属中に被告鈴木恒喜が死亡したとしても、同被告の関係で訴訟の終了を宣言する判決をしなかつた原審の措置に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(本山亨 団藤重光 藤崎萬里 中村治朗 谷口正孝)

上告代理人田倉整、同横山寛の上告理由

(はじめに)

本件上告理由は次の四点からなる。

上告理由第一点 原判決は、本件特許発明を法律的に評価するに当り、技術の進歩に関する常識に逆行する判断を示し、経験則に違背した違法がある。

上告理由第二点 原審判決は、上告人が申出でた証拠調べ申請に一顧も与えずに、独自の見解に立つて、証拠調べによつて容易に判明する当業者の常識に反する判断をした、手続上の違法がある。

上告理由第三点 原審判決は、東京高等裁判所がこれまでの判決において示した判断と全く相反する判断を示した判例違背の違法がある。

上告理由第四点 原審判決は、無効審判請求人の請求適格につき、判断を誤まつた違法がある。

第一、第二、第三〈省略〉

第四 上告理由第四点

原審判決は、無効審判請求人の請求適格につき、判断を誤つた違法がある。

すなわち、原審における被告亡鈴木恒喜は、原審係属中の昭和四九年一月三日に死亡していた。

無効審判請求人の法律上の地位は、その性質上一身専属のものであるから、無効審判請求人の死亡とともに、その手続は終了していた筈であり、相続を前提とする民事訴訟法第二〇八条および第二一三条の規定はその適用の余地もある筈はない。

従つて、原審は、右の趣旨を明確にする宣言をすることによつて事件を終了せしめるべきであつたし、その措置を求めることは、原審に対して不可能を強いるものでは少しもなかつた。現に、原審第五回、第七回各準備手続調書には、無効審判請求人の死亡の件が被告側より申出られている旨明記されているのである。

しかるに、原審判決は、特許庁審決をそのまま是認し、上告申立をしなければ、特許を無効とする審決を確定させる処置をとつたのである。

しかし、形式的にせよ、特許を無効とする審決が確定するように見える限り、特許庁が、審決確定を理由に、本件特許権の登録を抹消する挙に出るかもしれない状態が継続することになる。特許庁が裁判所の考え方と異なる考え方に立つて事務処理をすることは、充分にありうることであつて、ことに裁判所が明確な形での宣言がない限り、形式的に処理しようとする傾向があることは知られているところである。

従つて、少なくともこのような裁判所の明確な形での宣言を得ようとする限り、死亡した無効審判請求人の相続人と雖も、これに対応するための措置をとるべき義務を承継しているものといわなければならない。

この点において、原審判決には違法があり、被上告人亡鈴木恒喜の相続人に対する関係において、原判決の破棄を求める次第である。 以上

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